起業・経営ノウハウ

資金を無駄遣いしない事業の立ち上げ方

2022.02.27

この記事を書いた人:中村多伽
株式会社taliki代表取締役、talikiファンド代表パートナー。社会起業家の事業立ち上げ伴走、ベンチャーキャピタル運営、上場企業の事業開発支援などを行う。 

立ち上げのタイミングで資金は必要?

さて、あなたは素晴らしいビジネスプランを思いついたとします。

「開発を発注して、COOを採用して、、、すごくお金が必要だ!」と思っていませんか?
その時に、見落としがちなのは「どうお金を集めるか」と同じくらい「どうお金を使うか」が重要であるということです。

私自身は創業してすぐに資金調達をしたので、それ自体はラッキーすぎる状況で、私を信じて投資してくださった株主の皆様には頭が上がりません。

ただ正直、事業プランはあるものの無知だったので、どうやって何に使えば事業が伸びて、顧客への価値提供をより可能にするのに効果的なのか、本当に分からなかったんです。さらに、「どうやって出資者にお返しするのか」という絵を全く描けておらず、その覚悟も全然出来ていなかった。

投資家や銀行から調達する場合はもちろん、100%自分のお金だけでやり繰りすると決めている人も、限られた資金で結果を出す必要があります。

そこで、本記事では「資金調達をする前に抑えておくべき検証とお金の使い方」について考えて見たいと思います。

”小さく”検証するが鉄板

実際にお金をかける前に、「これは本当に求められるサービスか」というのを知る必要があります。これを必ずやることで、その後どのくらいお金が必要か、そもそもお金をかけるべきか、などが明確になります。
一番お金がかからないのは、Googleフォームなどを使ったアンケートや、知人や紹介・SNSでの繋がりから出会った人へのヒアリングなどです。

それで、かなり良い反応があった場合や、ニーズがあることが予測できてから初めて、少しだけお金を使って実際の需要を検証します。
サーバー借りてドメイン買ってサイトを運用してみるとか、試しに2万円分の広告を打ってみるとか、slackを使ってサービスを擬似的に表現してみるとか、Instagramでテストマーケをしてみるとか、レンタルスペースを借りて1日お店をしてみるというのが、「小さく検証する」というフェーズがあります。

「学生起業家の落とし穴とは?」でも触れたように、初期の検証は大きな開発の前に既存のツールのみを組み合わせて代替できます。そういう「小さく検証する」に対して、多くても必要なコストは10万円以内で収まるでしょう。

お金をどう使ってどう稼ぐか考える

さて、お金の使い方を考え始めたら、次は「それでより大きい売上を立てるには」という戦略を考える必要があります。

分かりやすく、お小遣いを例に考えましょう。
お母さんから500円のお小遣いをもらい、もらったお金をタピオカ1杯に使って全部自分で飲んだとします。

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タピオカが飲めてハッピーですが、当然新しい活動に使える残金が一円もなくなってしまいますね。

一方で、500円で購入したタピオカを、長い間列に並んで疲れている人に1000円で売るとします。すると、

500円(お母さんからもらったお金)÷500円(タピオカ一杯を購入するお金)×1000円(タピオカ一杯の販売価格)=1000円

1000円の売上となります。この売上1000円で次は2杯のタピオカを仕入れられますので、それをまた列で待っている人に売っていくと、手元に残るお金が倍々になっていきます。そうすると、お母さんからもらった500円を返しても商売が続けられます。
(余談ですが、1回目で500円を返すと元手が500円に戻ってしまうので、2回目以降で返した方が売上規模の拡大スピードが上がります)

あなたはさらに事業の拡大を考えるようになります。
お母さんに返す約束をして、追加で1000円を受け取ることにしました。そうすると、使えるお金はお小遣い+追加分で合計1500円となり、業務スーパーでタピオカ1kgと牛乳と黒糖を購入できます。黒糖タピオカミルクの一杯の原価が100円とし、同じように一杯500円で売るとすると、

1500円(もらったお金)÷100円(一杯あたりの原価設定)=15杯(作れる量)
15杯×500円(販売価格)=7500円

全部売れると7500円の売上が立つことになります。ちょっとだけ時間はかかりますが、最初の販売でお母さんにお金を返してもなお6000円手元に余ることになります。

一方、お母さんとお父さん両方にお願いし、追加で9500円を調達すると合計1万円となります。それをインフルエンサーの友人に渡し、タピオカを飲んでいる写真をインスタに投稿してもらうとします。そうすると、タピオカショップから(もしかしたら)PR予算として10万円もらえるかもしれません。この方法だとお金を返せる上に、手元には9万円残ることになります。

このように、「何にどのようにお金を使い、それによって結果的にどれくらいの売上と利益が上がるのか」を考えることは、誰からどうやってお金を調達するかと密接にリンクしているのです。

事業別の具体例

ここで、実際にあった数名の起業家の調達の例をを出して、イメージを深めて頂ければと思います。

具体例①高齢者の就業支援をする事業をやりたい起業家

とある就業支援にまつわる事業をしたいと考えた際に、彼らの課題をヒアリングした結果、月数万円程度の副次的な収入が必要だという事が分かりました。
そこで彼らを「雇用」という形ではなく業務委託契約の範疇で勤務時間を緩く設定し、ランニングコスト(月々の運営費)を柔軟に調整できるよう設定しました。
事業開始の際は、既にある加工工場や場所を使う事により、初期費用を抑えられる見通しがつきました。
それまでにデザインの経験を積んできたため、デザイナーとしての実績と貯金もある程度溜まっていました。

そこで、外部からの調達をせずに自己資金で運営をする事を決めました。

【ポイント】
他人からの調達をしないケース。自己資金とビジネスモデルを精査した結果、他人からの調達が不要だと判断しました。

具体例②とある食品の製造・販売事業をやりたい起業家

食のD2Cを立ち上げようと考えた起業家は、差別化する味を作り出すには自社工場が必要だと思い立ちました。
しかしそれらを全て一から自分たちで作ろうとすると、かなりの金額が必要になります。
金融機関からの借り入れをするにしてもいきなりの大金は難しく、地域に根付いた末長い事業を想定しているため、出口戦略を求める投資家からの調達も合わないと判断しました。
そこで、最初はインスタグラムで類似しているジャンルの食品の情報発信をすることにしました。フォロワーが増えるにつれて、どのような商品が世間に求められているのかがデータとして明確になってきました。
ただ、自分たちがメーカーにいきなりなるのではなくOEM(委託生産)を行い、そこで成果を出したうえで金融機関などからの資金調達を行い、工場の建設を目論むことにしました。

【ポイント】
施策実行時期をずらしたケース。工場設立をするとどうしても数億単位の大規模な資金が必要になるため、実績のない初期段階ではその信用を得ることが難しいと判断しました。

 

さて、いかがでしたでしょうか。「とにかくお金が必要!」と焦っている方はまず、使い方を考える→小さく検証する→その結果をもとにより大きな売上になる方法を考える、というのを頭に入れておいてください。

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