はじめての投資契約書

 

投資契約は投資家がスタートアップに対して出資することを基本的な内容とする契約です。
投資契約には色々な種類がありますが、投資実行(クロージング)の条件を中心に定めた契約が多いため、「株式引受契約」という名称が使われることもあります。そして、スタートアップが成長し、「シリーズA」「シリーズB」の段階となり、投資家が増え、資金調達額も多額となるときには、「株主間契約」と呼ばれる契約書や、「買収にかかる株主分配等に関する合意書」(以下「分配合意」といいます。)と呼ばれる契約書を締結することがあります。
投資契約では株式を発行する相手発行する株式の内容などを定めますがその際にはリスクや落とし穴がいくつかあります。

ここでは投資契約を結ぶ前にぜひ知っておいてほしいことお伝えします。

全体像(目次)

STEP 1:自分の現状を確認
チェックリストに該当する場合は、各種専門家への相談、依頼を検討しましょう

STEP 2:投資条件の合意と契約書作成
起業家と各投資家間で投資条件について合意
投資手続のスケジュール検討
投資契約書作成

STEP 3:株主総会の開催
株主総会関係書類の作成
株主総会招集通知の送付
株主総会の開催

STEP 4:契約の締結
投資家に必要書類の提出
投資契約の締結

STEP 5:投資金額の受取り(振込依頼&着金確認)
投資金額の振込依頼
事前の入金確認、未送金投資家へのリマインド
払込期日到来、入金確認

STEP 6:登記申請、株主名簿更新及び交付
登記書類作成、登記申請
増資反映後の登記簿取得
投資家への完了書類共有

まずは自分の現状を確認しよう

株式による資金調達は、失敗するとやり直しができません。
まずは事業の現状を把握しながら、契約書を進める準備をしましょう。
以下に投資を受ける際のリスクチェック表を準備しました。一つでも該当する場合は、トラブルに繋がることもありますので、専門家(弁護士・司法書士)に相談することをおすすめします。

資金調達前のリスク度チェック

投資契約書の合意と契約書の作成

1.各投資家と投資条件について合意

投資条件を理解し、必要事項の決定ができているかチェックしましょう。

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投資条件の確定には最低限下記の内容を決定する必要があります。

投資家と投資条件の認識に齟齬はないか?

 投資家と投資条件について合意したつもりでも、実はすれ違いが生じていた、などということは珍しくありません。例えば、「時価総額(バリュエーション)1億円とし、300万円を出資する」ことで合意していた場合に、時価総額についてプレマネーバリュエーション※1 またはポストマネーバリュエーション※2 のいずれかを確認しておかないと、投資家に渡す株式数が異なることになります。
 また、バリュエーションや投資額についてはきちんと合意できていたとしても、それ以外の条件については、十分に話し合いが出来ていなかった、などということもよくあることです。例えば、投資家側は投資条件に最恵待遇条項を入れることを前提としていたが、スタートアップ側は聞いていなかった、などということもあります。
 投資条件を話し合う時は、投資家から出される条件にどのようなものがあり得るのか、また、どういった条件に気を付けないといけないのか、投資家が出す条件は本当に現在提示されているもので全てかなど、注意が必要です。

※1 プレバリュエーション:資金調達をする前の時価総額→発行済株式総数×発行単価(株価)
※2 ポストバリュエーション:資金調達をした後の時価総額→発行単価(株価)+資金調達額

先輩起業家の失敗談

起業家Aさんは、投資家Bさんとバリュエーション1.5億円で500万円出資という投資条件で合意した。起業家Aさんはプレマネーバリュエーション1.5億円と考えていたが、投資契約書を締結する段階になって、投資家Bさんがポストマネーバリュエーションで合意したはずだと主張し、同じラウンドの他の投資家のとの調整も必要となり、最終的に放出する株式数が想定よりも多くなってしまった。

2.投資手続のスケジュール検討

投資実行(着金)までのスケジュールを把握して、無理がないかを検討しましょう。

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スケジュール設計の際は、下記のリスクがないか事前に確認しましょう。
不安なことがある場合は、専門家に相談することをおすすめします。

一般的な投資スケジュール
先輩起業家の失敗談

起業家Cさんは、投資家Dさんから投資を受けることになり、株主総会を開催して払込期日を設定したが、投資家Dさんに払込期日を伝えると、個人出資ではなくDが代表を務める法人での出資になるので、社内手続に最低2週間はかかるからその日程では振り込めない、と言われてしまった。払込期日を変えるための手続きが必要になり、スケジュールが遅延し、従業員への支払いが遅れてしまった。

3.投資契約書の作成

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投資契約書をつくる際に、下記のケースに一つでも該当すれば、思わぬリスクが潜んでいる可能性が高いです。不安になったら、専門家に相談しましょう。

投資契約書とは?

 次に掲載する投資契約のひな形「U-Star(University student Startup Stock Purchase Agreement)」は、起業して間もない「シード」「アーリー」段階のスタートアップが初めて投資家から数百万円から数千万円規模の出資を受ける場面を想定した契約書となります。
 起業家は、目の前の資金調達や投資家に気を取られ、地雷条項を含む投資契約を締結してしまうと、いわゆる「モンスターエンジェル」を出現させ、スタートアップ側だけでなく、その後のタイミングで出資を検討する投資家をも苦しめます。
 U-Starは、スタートアップ経験者、支援者、大学関係者、エンジェルが知恵を出し合い、過去の相談事例を参考に作成しました。スタートアップ側にとって地雷条項がなく、投資家に提示しても失礼ではない水準を意識し、さらに、スタートアップが成長後にも出資を行う潜在投資家にも受け入れやすい内容であることも意識して作成しています。
 スタートアップはサービス開発だけではなくファイナンスやリスクコントロールも重要であることを意識し、経営をする必要があります。もし、U-Starの条項や解説を読み、内容が理解できない場合や不安を感じた場合は、適切な専門家に相談してください。
 是非、良いファイナンスを実行し、大きな挑戦と成長を遂げ、スタートアップ関係者にとっての「Win-Win」を形成してください!

 

株主総会開催

(1)株主総会書類の作成

新しく株式を発行する場合には、株主総会を開催する必要があります。
また招集通知を作成し、議決権のある株主に送付します。
STEP3の最後に、株主総会の招集通知のひな形を掲載しますので、適宜変更して使用してください

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総会書類作成の際は、下記のリスクがないか事前に確認しましょう。
不安なことがある場合は、専門家に相談することをおすすめします。

(2)株主総会招集通知の送付

 非公開会社※3 の場合、株主総会の招集通知は、原則、株主総会の開催日の1週間前までに送付する必要があります。但し、定款に別段の定めをすることで、短縮することが可能です。例えば、「株主総会を招集するには、株主総会の日の3日前までに、議決権を行使することができる株主に対して招集通知を発するものとする。」などと規定します。

 

※3  定款において、発行する全ての株式について、譲渡制限が付けられている会社のこと

先輩起業家の失敗談

起業家Eさんは、定款には「7日前までに」との記載があったので、エンジェルラウンドでの資金調達のため、株主総会開催日から7日前に招集通知を出した。既存投資家Fから、中7日空ける必要がある(8日前に送付すべきだった)旨の指摘があり、手続き上の瑕疵があることが判明した。

(3)株主総会の開催

 株主総会招集通知を送付し終えたら、次は実際に株主総会を開催します。 昨今、Webミーティングツールなどを使用した株主総会の開催が行われていますが、いわゆる「バーチャルオンリー型株主総会 ※4」は認められておらず、「ハイブリッド型バーチャル株主総会 ※5」で株主総会を実施する必要があります。
 株主総会を開催し、募集株式の発行の決議を無事にすることができたら、後は株主総会議事録を作成します。株主総会議事録については、「STEP6<登記申請、株主名簿更新及び交付>」にひな形がありますので、適宜参考に作成してみて下さい。 自分で対応する際に疑問や不安がある場合には、専門家に相談して下さい。

 

※4 リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会のこと
※5 リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」をすることができるか、又は法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会をいう。

株主総会の招集通知のひな方

契約の締結

(1)投資家に必要書類の提出

投資契約の締結に際して、投資家に提出する必要がある書類を提出しましょう。

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(2)投資契約の締結

投資契約を締結する前の最終確認は重要です。以下の事項を漏れがないかチェックしましょう。

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先輩起業家の失敗談

個人の投資家Aとの契約を行う際に、事前にメールで伝えられたAの住所と氏名を記載していたが、その後引越しをしていたことがわかり、契約書の記載を修正することになりました。免許証などと照らし合わせておけばよかったと反省しています。

投資金額の受取り振込依頼&着金確認

(1)投資金額の振込依頼

投資家に額面・期日と法人の銀行口座を伝えましょう。振込口座は必ず株式発行会社名義のものを使用してください。振込手数料の負担に注意してください(投資額の満額が入金履歴としてついていないと、登記ができない)。

先輩起業家の失敗談

会社設立手続きの時には、発起人の個人の口座に入金していたので、今回も同じように、投資家の人に代表取締役の個人口座に振り込んでもらったところ、登記手続きができなかった。

(2)事前の入金確認未送金投資家へのリマインド

払込期日よりも前の日付で投資家の方に入金してもらうことも可能です。その場合は、募集株式発行の決議の日や募集株式引受申込証よりも後の日付となるように注意してください。

先輩起業家の失敗談

投資家Aに払込期日を伝え、投資金額の入金を御願いしたところ、株主総会の開催日よりも前の日付で振込されてしまった。

(3)払込期日到来、入金確認

払込期日当日までに、全ての投資家から投資金額全額が入金されていることを確認してください。

先輩起業家の失敗談

投資家から入金したとの連絡を信用して、実際にいくら入金されたかを確認していなかったところ、振込手数料を引かれた額が振り込まれていた。払込金額全額が入金履歴にないと登記手続きができなかったので、株主総会のやり直しや投資家との調整、連絡、投資契約書の締結のやり直し等が必要となり、全体のスケジュールが遅れた上に、追加で手間もかかってしまった。

登記申請株主名簿更新及び交付

(1)登記書類作成、登記申請

登記手続きは、「U-Star登記パッケージ」に掲載されているひな形を参考に行ってみてください。 もし自分で対応する際に疑問や不安がある場合には、専門家に相談して下さい。

(2)増資反映後の登記簿取得

増資の登記が完了したら、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得できます。
投資契約書によっては、登記完了後の登記簿謄本を投資家に交付することが条件になっているものもありますので注意して下さい。

(3)投資家への完了書類共有

株主名簿を最新の状態に更新した上で、投資家に対して渡すべき書類(募集株式引受申込証、登記簿謄本、株主名簿など)を共有しましょう。

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下記の場合は専門家に相談しましょう。

先輩起業家の失敗談

投資条件として、投資家に対して登記簿謄本と株主名簿の写しを交付することになっていたが、
うっかり忘れてしまっており、投資家から催促されてしまった。

U-Star登記パッケージ