起業・経営ノウハウ

学生起業家の落とし穴とは?

2022.02.24

この記事を書いた人:中村多伽 株式会社taliki代表取締役、talikiファンド代表パートナー。社会起業家の事業立ち上げ伴走、ベンチャーキャピタル運営、上場企業の事業開発支援などを行う。 

0:はじめに

私自身学生起業をして、若者の社会課題解決の事業の立ち上げに携わってきたので、若手起業家の卵から相談を受けます。数えたことはないですがおそらく1000件以上のご相談はお聞きしたかと思います。ビジネスプランの壁打ちや資金調達、リーダーシップとは、などジャンル自体は多岐に渡るのですが、起業前〜直後にかけての相談内容をまとめると、多くの場合が「色んなことが足りないのは分かるけど何から手をつけていいかわからない」に集約されるように思います。

実際起業してみると、足りないことばかりです。創業時に完璧に要素が揃っていることなどあり得ません。そして、事業内容や創業者の人間性、ビジネストレンド、時代背景など、あまりにも多くの変数に囲まれているため、一概に「これがあれば大丈夫」とは言えないのが現状です。それにこれを言い始めると元も子もないのですが、どんなに多くのビジネス書を読んでも、どんなに多くの先輩の話を聞いて「知ること」は出来ても、「実際にやる」とは大きく乖離があり、やりながら気付き、学ぶしかないことが大半です。

なので本記事では、「知識があるだけで少し違って見えるもの」のほんの一部について言及します。そして、「自分は何を知らないのか」にちょっとだけ気付き、これから学ぶ時の優先順位づけの一助となることを目標としています。
また、学生起業家の先輩方から「起業前に知っておきたかったこと」を意見として集め、多い順にトピックを絞っています。

1:取引・契約価格の相場が分からない

実は、学生起業の先輩から集めた声の中で最も多かった声がこれでした。大きく分けると、起業したてで、特に社会人経験の乏しい人がぶつかる「相場感」には以下の3つがあります。

①仕事の依頼やバックオフィスにいくらかけるか分からないケース

会社登記の手続きに必要な依頼から始まり、外部のエンジニアやデザイナーに外注する相場、オフィス賃料の相場など、始めたばかりの段階では利用したことがないので分からない場合が多いです。


大前提「無料で出来るツールはこの世に溢れているのでそれを活用する」ことと「固定費は必要最低限にとどめる」ということが何よりも大事です。

・登記に必要な定款作成などは無料のツールで行う
・会社HPは一から構築する必要がなければページビルダーやwordpressなどで無料で作成する(プログラミングの知識がなくても出来ます)
・オフィス賃料は自宅兼で月々の固定費を抑える
などがよくある手法です。

その上で、必要経費に関して先輩からまず話を聞くこと。例えば弊社や投資先の場合、登記は無料のツールを活用し、社会保険の加入や税務処理などは社労士さんと税理士さんにお任せしています。
社労士、税理士などは普段の業務や雇用に必要な上に、専門知識が必要で、自分でやろうとすると煩雑すぎて経営に集中できなくなるからです。会社規模にもよりますが、スタート段階では顧問料や依頼料は月1-3万が妥当だと思います。公式HPやサービスのプロトタイプではno codeツールなどを使っており、バックエンドの処理が複雑なものだけ内製しています。開発に関することなどはプロダクトを内製してる会社の人の話を参考にすると良いでしょう。

②価格設定が分からず安売りするケース

C向けサービスなどは価格が明示されていますが、B向けだと適正な価格帯の相場が分からず、若者の金銭感覚から安売りしてしまうケースをよく見ます。もちろん高付加価値で高単価になる事を目標にするのが良いとは思いますが、まずは似たようなビジネスに関わったことのある人、発注したことがある人の話を複数聞いて値段感を把握するのが良いかと思います。

  価格の決め方には
  ・コストベース
  ・競合ベース
  ・価値ベース
  など、相場感と合わせた軸もいくつかあるので参考にしましょう。

また、法人相手のサービスを行う人は社内決裁のフローを知っておくのが大事という意見も。学生起業の場合は、企業の意思決定の仕組みに馴染みがなくつまづきやすいポイントですが一番重要と言っていいのがこの決裁フローです。決裁権のない人、予算権限のない人にいくら提案しても通らない、りん議を通すために必要な要素(サービス内容としてさほど重要じゃないことも多い)が揃ってない、大企業相手だと決裁のスピードが遅いなど、多くのハードルが存在します。
始めたばかりの頃は決裁権のある人と繋がるのも難しいかと思いますが、飛び込みより人からの紹介の方が圧倒的に成約確度は高いです。

③いくらぐらいで資金調達すべきか見当がつかないケース

これは記事の後半でも詳しく触れるのですが、初期に資金調達をする際の出資の相場や融資の相場は絶対に知っておいた方がいいです。なぜならこれは一度契約を結ぶと、どんなにそれが理不尽だと後から気付いても覆すのがとても難しいからです。
スタートアップ企業が投資家から調達する際、創業直前直後のいわゆるエンジェルラウンドだと企業価値(バリュエーション、時価総額と呼ばれます)が数千万〜2億で、出資額は数百万円〜2000万未満が多いです。株式の割合としては数%〜15%未満がほとんどです。数百万円でも個人としては大金ですが、その金額で30%以上のシェアを渡してしまう若手起業家をたくさん見てきました。(議決権を1/3以上保持している株主は一部の意思決定を拒否することができます。)
合意が取れていれば問題ないので、なぜその金額で、なぜその出資割合かというのは上の相場に照らし合わせて議論してください。
ちなみに、プレゼン一枚や顧客のいないプロダクトに企業価値5000万円以上つくというのは会計的にはあり得ないぐらい高価格です。ただ財務諸表には可視化されない、チームや将来性のような価値の違いがあったり、開発など色んな都合を考えた時の慣習的なもの(まさに相場ですね)だったりするので、「そういうもんか」と思っておいたら良いと思います。地方で起業するとそういうのに慣れてる会計士さん・税理士さんが少ないのでびっくりされます。

公庫や金融機関から調達する際、特に職歴のない学生はまず断られるケースが多いです。
メガバンクは基本的に無理だと思った方が良いです。理由は様々ですが、金融機関は投資家と違い「確実に着実に返す」が原則です。なので彼らは若くて実績がない人をリスクとして考えます。そしてビジネス経験のない人が書いた事業計画書は本人が思っている以上に修正の余地があります。これは両者仕方ないと思います。

そういう時は、公庫を含め多くの金融機関がサポートデスクのようなものを設けていますので、窓口から正面突破せず、まずサポートデスクのようなところで見てもらってどこを修正すべきかコメントをもらうと門前払いされずに済みます。それでも無理なら、地域の信用金庫に行ってみてください。顧問の税理士さんがいる場合は、その方に紹介をお願いすると通りやすくなることが多いです。
若手起業家は借りられるとしても実績がないうちは数百万円〜1000万代前半くらいです。最初に全部借りるよりも、少し借りてちゃんと完済するとそれが信用になり、もっと大きな額を借りられるようになるので焦らずいきましょう。

2:チームメンバーとの関係性が分からない

若者の起業となると、仲良しで起業することが多いと思います。ここから学んだ起業家の先輩方からのメッセージは以下の2つです。

①創業時の株の割合はシビアにすべし

私たちがサポートしてきた100以上のチームで、学生起業で創業メンバーが抜けなかったケースはほとんど見たことありません。多くの場合が創業後一年以内に重要メンバーがいなくなります。しかも、「絶対に一生一緒にやっていく」と言っていて、側から見てもナイスコンビと言えるようなところが、です。
しかし、これは仕方のないことです。仲間として価値観が合うことは本当に大事ですが、その上で役割や専門性、やりきる力など同じくらい必要な要素が事業推進にはあるのです。そしてそれは創業前に把握できなかったりします。なので、株の割合という、創業者が抜けた後に一番トラブルになりやすいことはしっかり決めておくことが大事です。どんなに仲良くて信頼し合っていても、代表が必ず多く持つこと、そして抜けた際にどのような抜け方であっても株の買取価格を取り決めておくなど、トラブルにならない「創業者間契約」を結んでおくことが大事です。
仲間内で契約なんて、とか自分たちだけは大丈夫、と思う人ほど、万が一の時の痛みが大きくなります。創業後は、新しく増える仲間には雇用契約を、新しく増える株主には投資契約や株主間契約を、など、会社の未来に想いやお金を託す人たちと色んな契約を交わします。その一歩めとして、必ずやってください。

②仲間が多すぎるのはNG

想いに共感してくれたから、仲良いから、と事業がないのにチームに5人以上いたり、事業規模や必要なスキルセットに合わない人が増えると、コミュニケーションやマネジメントに必要以上に労力がかかり、成長はかなり鈍化します。良いサービスが大人数で運営されているとは限りません。
加えて、よく分からない大人をたくさん迎え入れているケースもかなりあります。必要なナレッジを持っているのか、本当に事業推進に寄与する存在なのか、株式をやたら求めてこないか、秘匿性の高い会社情報の開示を求めすぎていないか注意してください。
ビッグネームを出して紹介するよと言ってるケースも多いです。
特に女性の若手起業家には必ずと言っていいほど、初期に口出ししたたがる大人がいます。大体の場合、本当に応援してくれる人であれば会社のメンバーにしたり顧問契約を結んだりせずとも、1ヶ月に一回お茶してアドバイス貰えば済む話ですし、契約がないと月1のお茶さえ対応してくれない人はそもそも組織に入れない方が良いです。

3:財務やファイナンスの基礎が分からない

相場感やチームマネジメントを把握したところで、次は財務、ファイナンスのお話に移りたいと思います。こちらも起業家の先輩方から多くの意見をもらった分野でした。

①基本的な実務知識の習得について

まず、何よりも会社のお金の流れを表した「財務三表」「決算書」というものに馴染みを持っておく必要があります。これは創業前にいくらでも学べる上に本メディアでもご紹介しますので、本やメディアを参考にしてください。(※後日公開)
BS、PL、CSについて概念をなんとなく把握したところで、次に知るべきが「資本政策」です。ちなみにこれは投資家からの資金調達をする予定のない起業家にはあまり当てはまりません。資本政策とは、平たく言うと、必要な資金調達を実現するための施策をいいます。スタートアップにおいては誰にどんな種類の株をどれくらいいくらで発行・譲渡したか、将来にかけて(IPOまでの間に)どうしていくかなどを記した表を資本政策と呼ぶことが一般的です。

この資本政策というのは一度実行してしまうと覆せません。創業期は割とシンプルなのですが、成長するにつれて関係者が増え、複雑性が増し、「あの時この割合でいけばよかった」「この価格でいけばよかった」と思っても変更するのがとても難しいのです。

対策としては、調達経験の豊富な起業家やVC経験のある人に資金調達の実施前に見てもらうのが一番良いです。ステージが進めば進むほど関係者が多くなり、株式のシェアも「1.25%」のような刻みで発行されていきます。

創業時の株数はどのくらいがいいか?という質問もよくありますが、10,000株以上にしておくのが無難です。(ちなみに弊社は創業時1,000株で株式分割という手続きを取り10,000に増やしました。株主が増える前にやると良いです)

②資金繰りの方法

「自分は外部の投資家を入れる予定はない」という起業家でも、いつかは資金調達の必要が出てくるかもしれません。外部からの資金調達には大きく下記の3つがあります。組み合わせパターンもありますが、1つずつ説明します。

★金融機関からの調達

もっとも一般的で、どの起業家にもある程度フィットします。入念に準備しないと断られるケースも多いですが、今は金利もとても安いのでぜひ活用してほしいです。

★クラウドファンディング、寄付など

ファンとの関係性が深い事業や、新規性の高い商品開発を伴う事業に向いてる調達方法です。調達金額は他のものと比べるとかなり少額が多いですが、ビジョンドリブンで使途も決算も正確に開示せずともお金を集められる唯一の方法です。

★投資家からの調達

エンジェル、VC、事業会社など色んな投資家がいますが、VCからの調達は特に5-10年で上場する、もしくは大型で会社の売却を目指している起業家のみにオススメです。VCは出資先がIPOをすること(少なくとも狙っていること)を前提としています。融資と違って直接的な返済義務がないのは、それぐらいの大きなリターンを求め、その分のリスクを取るからです。上場を目指していない人がその約束をするのは投資家・起業家双方にとって不幸になります。ちなみに会社売却時はお互いの合意や計算方法によって前後しますが、ベンチャーだとPER(株価収益率)10-20倍くらいのレンジが試算に使われるのをよく見ます。余談ですが、大きなリターンを求めるくせに、全くリスクを取らない投資契約も中には存在します。投資契約は必ず詳細にレビューしましょう。(後日関連記事の公開)

★資金繰りまとめ

営利企業を立ち上げたら、よっぽど革新的な「あなたしか知らない事実」がない限り、まず「どうやったら外部からの資金調達に依存せずキャッシュフローを生めるか、現預金が増えるのか」を考えるべきです。
その上で、次に「IPOもM&Aも興味ない、もしくは10年以内に数十億規模の売り上げを立てる予定もない会社」はVCからの調達はほぼ向きません。(ここで”予定がない”というのは、”意志や思い入れがない”を指します。予定はあっても達成できないことが多いですが、まず目指しているかどうかは大きな違いです)なのでおそらく多くの起業家は若手に限らず融資(かクラウドファンディング)がメインの調達方法になります。私募債、TK出資など他にも細かい色々な調達・還元方法はありますが、事業が立ち上がっていない段階では使えないものが多いです。

4:ビジネス領域、マインドセット

①意外とビジネスで解決できる領域は少ない

これを始める前に知るのも見分けるのも難しいですが、下記の4つに分類されます。
★顧客の痛みが深くない、実質的に必要ない…多くの場合このケースに当てはまります。あったら嬉しいかもしれないけど面倒だから使わない、なくても困らない、強力な代替手段がすでに存在する、など。

★当事者の規模が大きすぎる、もしくは購買能力がない…社会課題解決型の事業ではよく発生します。貧困支援や環境問題など、解決する必要性も緊急度もかなり高いが構造的な問題で金が回らないケースです。自治体と協業して非営利団体として運営する方が相性がいいケースが多いです。

★ニッチすぎる、早すぎた…ニッチなジャンルであることや先進的で尖ったアイディア自体は私はとっても魅力的で素敵だと思うのですが、経済圏にいる人が少なければ少ないほど、持続や拡大のための投資がしづらくなります。期限付きのプロジェクトでやる、横展開しやすいナレッジの蓄積を念頭に入れる、などする手がありそうです。

★法律的にハードルが高い…面白い領域でブルーオーシャンで儲かりそうなところは、法律的に実はかなり規制が強い、みたいなケースは結構あります。金融系はその最たる領域です。いかなるサービスも開発前に規制がないか調べましょう。

②マインドは結局大事

起業家の先輩方から一番多かった実務以外の意見はこちら。

★目標設定、意思決定が全て自己管理に委ねられている。よっぽど自分で決めることに快感を覚えたり他者に決められることに不快感を感じない限り、重荷になると思う。
★リスク低減のためのネガティブシンキングが必要
★生きる意味から考えた方が良い
★何にも経済的に守られてないこと、ステークホルダーに自らが約束すること、永続的な成長が前提にあること、などが予想外に精神的な負担になる
 自分がハンドルを握る分、リスクも常に付きまといます。ただ、全てを自分だけで解決する必要はありません。ぜひDOON!メンター陣も頼ってみてください。
 
さて、いかがだったでしょうか?皆様の起業の心準備になれば幸いです。

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