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地域通貨×神戸大学 授業で地域を活性化

2023.01.23
動き出し

産学連携や地域連携という言葉をよく聞きますが、授業やアルバイト、サークル活動がある中で、学生が大学の外と連携するのはなかなか難しいですよね。

でもご安心を。近年、多くの大学がよりまちや地域に開かれた大学を目指しており、各地域と大学ごとに特徴的な授業やプログラムを開講しています。

神戸大学経営学研究科の保田隆明教授は、2021年11月〜2022年1月末で、神戸市灘区の水道筋商店街を中心に利用できる地域通貨「すいすいコイン」の実証実験を、神戸市、NTT西日本、地元のベンチャー企業のW Inc.、商店主や地域住民で構成されるNPO法人わくわく西灘と連携して実施しました。

このプログラムの一部を保田教授の演習授業として行い、プロジェクトの中心となった神戸大学の大塩さんと根来さんのお二人に話を聞くことで、授業を通して地域の商店街に学生がどう関わり、何を得られたのかをお伝えします。


大塩 萌(おおしお もえ)さん
2000年生まれ 愛知県出身
神戸大学経営学部卒業 *取材時点 4回生

ーー保田先生の授業に参加された経緯はなんだったんですか?

大塩:
昔から組織論とかに興味があって、「経済はお金、商学はもの、経営が人」だという話を聞いて、経営学部にしました。1・2回生のときは部活とバイトに集中して、3回生からゼミの活動もありつつ就職活動もほとんど終わっていました。

ーーとても順調な大学生活だったんですね。

ただ、授業としては簿記とか会計とか数字のことを扱うことが多くて、少し理想とは違ったなと感じていました。4回生の秋のときに、卒業まであと1単位で、理論を聞くだけではなく実践する授業がいいなと思っていた時に、商店街と地域通貨というのが引っ掛かりました。生まれたのが比較的都会だったので、ドラマの世界で見るような地域の繋がりみたいなものへの憧れがあったんです。水道筋商店街にはそれが残っていると書いてあったので、面白そうだなと感じました。

根来 悠生(ねごろ ゆうき)さん
2001年生まれ 和歌山県出身
神戸大学経営学部 *取材時点2回生

根来:
入学するタイミングで授業がほとんどオンラインになったので、1回生の間は大学に行くことがなくて、同じ学部の人達と触れ触れ合う時が全くなかったです。学生団体に入って、活動していたんですが、途中でやめてしまって、他のサークルを知る機会もなかったので、人との接点が少なくなっていました。1回生を振り返ると、楽しくて成長につながった経験がなかったので、もったいなかったなって実感があります。

ーーコロナで色々経験するというのは難しくなっていますよね。

根来:
はい、2回生になって授業を知ったきっかけは、Twitterで授業の情報が流れてきたんです。座って授業を聞くのが苦手というのと(笑)、和歌山県出身で、地方の活性化とか交通に関心があったので、「地域活性化のための地域通貨演習プロジェクト」っていうのが面白そうだなと思って、受講しました。

今回のプログラムの舞台となった水道筋商店街は、地元の人を中心に1日1万人ほどが利用する商店街です。お店や利用者も高齢化しつつある中で、どう活性化するかが大きな課題となっています。学生に与えられた課題は、「地域通貨を利用する人がどうすれば増えるか?」。そのきっかけとなるようなプログラムを考えて、企画することでした。


大塩:
商店街にそれまで来たことがなかったので、商店街のことを知ることからスタートしましたね。最初に来た時は思ったよりも人通りが多いなって感じました。

商店街ってさびれているイメージを勝手に持っていたんですけど、この商店街は若いお母さんとか、おじいちゃんおばあちゃんまでたくさんの人が利用しているんです。おしゃれなカフェなんかもあって、そんなに家からも離れていないのに全然知らなかったです。

根来:
商店街のすぐ近くに住んでいるんですけど、それまで大型のスーパーマーケットとドラッグストアで買い物が終わってしまって、それ以外のお店には行ったことがなかったです。入ったことがない飲食店って、何が出てくるかは分からないので、入るにはハードルが高いんです。なので企画によってどんなお店があるか知るきっかけになればいいなと思いました。

商店街の人たちと話をする中で、前にすごろくを企画したという話を聞きました。そこから着想を得て、すごろく形式で飲食店を巡ったら面白いんじゃないかということで、「飲食店巡りすごろく」として詳細部分を学生が詰めていくことになったんです。


「飲食店巡りすごろく」とは・・・

地域通貨の「すいすいコイン」を持っている人を対象に2021年12月11日・18日・19日の3日間で実施しました。

商店街を舞台にすごろくを行い、止まったマスの飲食店におかずをもらいに行って、オリジナルのお弁当を作っていく企画です。


大塩:
ねごちゃん(※根来さん)や他のメンバーと授業外で商店街に集まって、話し合ったり作業したりしましたね。

根来:
話を聞いたり、アイデアを出し合ったりするのは結構ワイワイできたんですけど、企画が決まってからの段取りが大変でした。協力いただくお店に迷惑を掛けないようにしないといけないので、自分が本当にお客さんの立場とかお店の立場になった時にどういう問題が起きるんやろうってことを考えました。

協力してもらうための資料を作って、実際にお店の人と交渉して、金額の話まで学生で行いました。料理も何があるかとかどんな方かとか、行ってみないと分からなかったので、そういったところが大変でした。実際には、学生ということで話を聞いてくださって、私たちのアイデアに共感していただいたり、「企画してくれて、ありがとう」って言ってくださる方もいて、これまでしたことがない経験ができて、楽しかったです。

大塩:
当日は、お客さんを誘導するスタッフに 学生や社会人の方に来てもらいました。準備のために商店街に何回も来ている私たちとは違って、商店街のことを知らないので、お客さんに商店街のことを説明できるように、ガイドブックを作ったり、マニュアルに落とし込んだり、円滑に進む設計を意識していました。

ガイドブックを作るにあたって、商店街の方に話を聞いたんですね。その中で、商店街には店と店の間に空き地があって、それは火事が起こっても他に広がらないようにわざと空き地になっているというのを知りました。商店街のことを理解していく中で、愛着が湧いていきました。そういった発見を当日来てくれたお客さんにも届けたいなと思いましたね。


企画から実施まで3週間という短期間でしたが、ホームページや企画説明の動画も学生たちは制作しました。


大塩:
参加した方は、お子さん連れのご家族もいれば、おじいちゃん・おばあちゃんみたいな方もいて、いろんな方と話をすることができました。普段商店街に来る方もいらっしゃったんですけど、私たちが調べたことを「全然知らなかった!」って言ってもらえたのが嬉しかったです。逆に、その人が持っている情報を知ることができて、とても盛り上がりました。やっぱり地域で集まることができる機会は必要なんだなって企画を通して実感しましたね。

今回の経験で自分がどういう風に地域と関わるかというイメージが少しできました。2月にも地方創生事業を行う会社に飛びこみでインターンをしたんですが、その決断できたのも、この授業を経験したからだと思います。

根来:
学生の間って、先生とか同級生・先輩とか相手の立場を知った状態で話をすることがほとんどなんですけど、名前も立場も知らない人とその場で話したり、盛り上がったりするという経験ができたのは新鮮でした。イベント後、商店街を通ったときに関わったお店の方と挨拶すると、「覚えててくれている!」って嬉しい気持ちになりました。

ーー1年生と2年生のときを比べてどうですか?

根来:
一年と二年生の時どっちが良かったかみたいなのを言いたくなくて。一年生の時は、何も果たせなかったというか、ただただひたすら同じことをするしかなかった。それが二年生になって、初めて何か行動を起こして、実現できたという風に思っています。でも、それは一年生の時に「ああ何もできなかったな。次こそは頑張らないと」って思う苦しみがあったからこそ、こうやって一歩踏み出せた。自分にできることをしっかりとできたっていう経験が、今の自分を作って、それが今後の糧になるのかなと今は考えています。今回、大塩さんや他のメンバーの存在も大きくて、仲間がいたのが自分にとってすごくプラスでした。学年は違いますけど、本当に出会えてよかったなと思います。

最初にも話した通り、和歌山出身ということもあって地域活性というのが頭にはあって。交通が好きで、交通は人間の生活を支える上で欠かせないと思うので、今回の経験を活かして、将来的には拠点駅とかを中心に地域活性化をしたいっていう風に思っています。


編集後記

今回、「飲食店巡りすごろく」に協力した精肉店の森本さんは、「昔は学生と関わる機会があったんですけど、最近は少なくなっていたので、僕らにとっても新鮮で刺激になりました。僕らが思っていた以上に、学生って地元のことを色々考えていて、方向性は一緒なんだなと思いました。昔みたいに、お互いのイベントとかにもっと協力しあえるような関係にしていきたいと思います。」と話しています。”地域貢献”と名打つと難しく感じてしまいますが、お互いがまずは話したり、関わったりする機会を作ることが大切なんだと感じました。

とは言っても根来さんが話をしていたように、近くに住んでいたとしても機会がないと、話すことでさえも難しいものです。だからこそ、今回のように授業という形で地域と関わる機会がもっと増えることが求められているのだなと思います。

みなさんの大学でも同じような取り組みが行われていないか、ぜひDOON!で探してみてください。

 

企画/株式会社 枠
撮影・編集・文/岡﨑 拓也
協力/株式会社W

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