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自分のセクシュアリティを言語化したら、言葉はいらなかった 「揺れ動く、今の気持ちを大切にしたい」

2022.03.31
着火

自分のセクシュアリティを言語化したら、言葉はいらなかった 「揺れ動く、今の気持ちを大切にしたい」

大学生のみなさんに「今どんな記事が読みたいですか?」とアンケートをとったところ、多くの人がLGBTQ、セクシュアリティについてもっと知りたい、深めたいと答えてくれました。
セクシュアリティは人それぞれであることは知っていても、自分自身の事はまだよくわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、学生時代にセクシュアリティ分析アプリ「anone,」を作った中西高大さんに、自身のセクシュアリティと向き合ってきた過去、そしてこれからについてお話しをお伺いします。

【プロフィール】
中西高大さん(職業UI/UXデザイナー/大阪大学 外国語学部 2022年3月卒業 25才)
大学在学中にセクシュアリティ分析アプリ「anone,」をローンチ。休学経験を経て、企業へ就職しながらも7年間大学に通い卒業。

 

 

セクシュアリティに迷っている人も、それ以外の人にも楽しんでもらいたい

 

ー中西さんが作られた「anone,」というのはどんなアプリなんですか?

このアプリは66個の質問に答えていくと、2,000通りのセクシュアリティの組み合わせから、今の自分の状態に一番近いセクシャリティが分かる診断サービスになってます。当初から、セクシュアリティに迷っている人もそれ以外の人にも楽しんでもらいたいという目的があって、現在25万人の方に利用していただいています。特に広報活動はせず、SNSのシェアなどで広がっていきました。

【anone,とは】 https://anone.me/

2,000通りのセクシュアリティの組み合わせから、あなたに「もっとも近い」パターンを分析します。あなたが普段感じている、性に関する疑問や不安が解消されるきっかけになるだけでなく、これまで性に触れてこなかった人でも、潜在的に気づかなかった自分を見つけることができます。

※)anone,より参照

 

ーアプリを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

在学中に、セクシャリティに関して同じような課題意識を持った子たちで集まって、学生団体をやっていました。活動としては、学校でセクシャリティを教えたり、企業の方を呼んでこれからの多様性のあり方を考えるようなイベントの実施などですね。

そうやって活動する中で、関わる人が偏ってるなって思い始めたんです。

盛り上がってるのって本当にその界隈の一部の人だけで。それ以外の人たちってどんなものかも分からなかったり、関心自体も低くて。せっかく盛り上がってるのに、もったいないなって感じていました。

アクティブに啓蒙する人に頼っている現状もあったので。ある意味、人に頼らないシステムで広められないかなと思ったのが最初のきっかけでした。

ー学生時代にアプリをローンチされていますが、どのように作っていったんですか?

株式会社talikiがやってる、起業家支援プログラムに参加したことがきっかけでした。全くアプリの作り方も知らなかったので、こんなアプリ作りたいと周りに言いまくっていたら興味持ってくれた人が集まってきてくれて、その中にエンジニアの子もいて手伝ってもらうことになり、実現することができました。

ーアイデアはどのように生まれたんですか?

僕自身はそこまで深刻に悩んだ経験がなかったんですけど、自分以外のセクシャルマイノリティ(以下セクマイ)文脈で集まってきた子達っていうのは、色んな場面で自身のセクシュアリティに迷ったり悩んだりしていました。自分のセクシャリティを友達に言えないし、日常生活で色んなことやっぱり嘘つかなきゃいけないのが凄いしんどいと話していて。何とかしてあげたいなって思ったところもあります。

僕がセクマイコミュニティとそうじゃない人のコミュニティを行き来してたので、だからこそみんなが使えるようなサービスが生まれたのかなと思います。

 

自分なりの正解を、ひとつ持っていることが安心に繋がった

 

ーご自身の中で変化があったのはいつ頃だったんですか?

高校2年生の時です。でも、そこまで深く考えてなかったです。男の子に対して、恋愛的にどきどきしているのか、普通に友達として憧れがあるのか、その当時はわかっていなかったんです。クラスの特色として男の子同士が凄い距離が近くて、楽しいから一緒にいる感覚もあったので。それに、高校3年生では女の子と付き合ってました。

ーそこから、どんな事がきっかけでご自身のセクシャリティと向き合うことになるんですか?

大学2. 3年の頃、どこかのタイミングで、自分のセクシャリティがよく分からなくなったんです。基本的には女性が恋愛対象になるけど、男性に興味ある自分もいて。実際、恋愛関係になったこともありました。

一番近いのがバイセクシャルという言葉だと聞いたときも、なんか違う気がして。自分は結局なんだろうと思っていたら、たまたま知り合いに連れてってもらったイベントで詳しい方がいて「パンセクシャル(※)の人もいるよ」と聞いて、めっちゃすっきりしたんです。
※パンセクシャル(またはパンセクシュアル、全性愛):あらゆる性別の人が恋愛対象になる人を指す。

中西さんの大学時代のお写真

 

ー自身のセクシャルに対して言語化するステップが必要だったんですね。

当時の自分からすると必要だったかなと思います。自分なりの正解を一つ自分が持っていることが安心に繋がって、そこから派生して人生に対する考え方も変わっていきました。

ーそのあと、同じ考えをもった方と一緒に「anone,」を制作されたんですね。

僕の周りに集まってくれた方たちは、固定化されたラベリングをつけない人たちなので居心地が良かったです。僕らの考え方としては、ジェンダーとかセクシャリティって移り変わるものだと思ってて。今までどうとか関係なく、その時のタイミングで同性が好きとか、今は女の子寄りの格好がしたいとか、今の気持ちを尊重し合えるメンバーでした。

 

「揺れ動き」を大事にしたいと思うようになった

 

ー「anone,」ローンチ前とその後で、価値観が変化したことはありましたか?

セクシャリティの分析サービスを作っていながら矛盾しちゃうのですが、自分自身にはセクシャル別のラベリングは要らないなって思いました。

ー当初はセクシャリティがよく分からなくなって悩んだ。でもいざ言語化してみたら、要らなくなったということ?

サービスを作った当初は、揺れ動きたくないと、どこかで思ってた部分はあって。変わることって怖いなって思ってました。当時はその分だけ瞑想するし、よく迷子になってました。

でもサービスを作っていくうちに、ひとつの枠組みに囚われるよりも、この自分も色んな自分がいる中のひとつの要素なんだと思うようになって。

今はそうだけど、これからはわからない、そういう揺れ動きを大事にしたいと思い始めたんです。

肩書きとか、カテゴリとか、決めなくても、色んな要素が集まって自分っていうのが形成されてるなと思ったから、今はもうこだわってはいないです。

揺れ動くことに対して抵抗がなくなると、人生に対する価値観も変化してきて。大学卒業まで時間かかったこともコンプレックスだったんですけど、まあそれもいいな。とか。今もデザイナーとは言いつつ、別にデザインだけじゃないし、色んなことを曖昧なままにしておきながら過ごせるようになりました。

外側の部分じゃなくて、気持ちの部分を大事にできたことが大きかったと思います。

 

人生で迷った時のヒントになって欲しい

 

ー学生へアンケートをとったところ、自分が知らないうちに相手を傷つける発言をしたりしているのかもと思うこともあるみたいで。中西さんは接する中で気をつけていることはありますか。

こういう風な対応をしなきゃみたいなことってないと思います。必要以上に過敏になってしまうと、対等なコミュニケーションが取れなくなっちゃうかもしれません。

心掛けをすることは大事だとは思うんですけど、無知で人を傷付けることって生きてたらいくらでもあると思います。未然に防ぐことは大事な一方で、もし傷つけたと思うなら謝る、本人と向き合うことの方が大事なのかなと思いますね。

ーこれから、どういう活動をされる予定ですか?

「anone,」自体は、これからもそのままにしておこうと思います。特にビジネスなどの展開を考えている訳ではないですが、サーバー代は支払い続けようと思ってます(笑)。

20代前後とか、人によってはもっと遅いかもしれないですけど、自分って何者なんだろうって悩むタイミングって誰しが来る気がしてて。正解が見つからないままだと、自分の居場所はどこにもないんだとか、自分はおかしいんじゃないかとか、余計に悩んでしまうかなって思います。そんな時にちょっとしたヒントとして使ってくれたらいいなと思ってます。また、セクシャリティに関心がなかった人にも触れてもらいたいですね。

あと今、男性性や家族の在り方、お金の回り方に関心があって。「anone,」の活動も、セクマイとそうじゃない人の間を横断したような形だったので、今まで接点がなかった関係同士を上手く組み合わせたり、繋いだり、横断できるようなデザインや仕組みを作っていきたいなと思ってます。

 

悩んで立ち止まる時間もちゃんと作る

 

ー内面についてたくさんお話しいただきありがとうございました。最後に学生のみなさんへメッセージをお願いします。

「これから自分はどこへ向かっていくんだろう」とか「自分ってなんだろう」とか、不安はそれぞれだと思いますが、もうとことん悩むことに時間を使っていいと思います。就職や学業で、十分に時間が取れない時もあると思います、そんな時は、一旦取り組んでいるものを休憩してもいい。立ち止まる時間がたくさん取れるのが大学生活のいいところなので!

 

 

みなさんいかがでしたか? 中西さんは内面を言語化することで、逆に言葉や枠に囚われず、揺れ動く自分のままでいようと思ったとのこと。
自分自身と向き合うタイミングや理由はひとそれぞれ、もし自分が感じてることがわからなくなったら、まずは言葉にしてみるといいかもしれませんね。

 

企画・撮影/株式会社 枠
編集・文/mao yoshida

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