大学生活に焦るも、やりたいことが見つからないあなたへ。「やりたいことが見つからなくて焦ってます。」駆け込み風呂座談会
大学生活に焦るも、やりたいことが見つからないあなたへ。「やりたいことが見つからなくて焦ってます。」駆け込み風呂座談会
大学生になると、自分の好きな授業を選んだり、サークルに入ってみたり、アルバイトを始めたり、高校時代とは違って、自分で選択する出来事が多くなりますよね。
授業のスケジュールも自分で選択できるから、時間にも余裕ができるようになります。
どんな授業を受けよう?授業の後どんなことをする?……いざ考えてみると、やりたいことがないし、興味が持てるものもない……「あれ?私って何がしたかったんだっけ?」となってしまうことも。
自分のやりたいことが見つからなくてなんだかモヤモヤする。
そんな大学生の悩みを、お坊さんと古本屋さんという少し違った道の選び方をした2人に聞いてみました。
【登場人物】
池口龍法さん(41歳/龍岸寺・住職/京都大学卒/京都府在住)
お寺の住職をするかたわら、仏具系ポップユニット「佛佛部」の運営や、YouTubeを活用したオンラインでの情報発信を行う。地域のつながりを大切にしつつも、新しいオンラインでのコミュニケーションに挑戦するなど、新しいスタイルのお寺の運営を行う。
石田行宏さん(27歳/八上書林・店主/京都理容美容専修学校卒/兵庫県在住)
「八上書林」という古本屋を運営。「日常に溶け込むような、生活リズムの一環に入れるような本屋」をテーマにオンラインで古本を販売している。
【今回の舞台】
コワーケーションスペース九条湯
2008年に廃業した銭湯『九条湯』をレンタルスペースとしてリニューアル。
当時の銭湯の内装や雰囲気を残しつつ、地域の方を含め、様々な方が仕事をしたりくつろいだり、自由に過ごせるスペースとなっています。
コワーケーションスペース(コミュニケーション+ワーク(活動・仕事・体験など様々な意味)として、単に仕事や作業をするのではなく、お客様同士が交流し、何か新しい事が生まれる”コミュニティHUB”になることを目指している場所です。
【質問】
大学2年生なのですが、就活の時期が近づいているけど、やりたいことがないし、興味があることもなくて、焦りだけはあります。こういう時、どうしたらいいでしょうか?
何者でもない「自分」で人と繋がることができる学生時代
石田:
人によって状況が違うので、何かピンポイントにこれをしたほうがいい!というのはないけど、何かしなきゃいけないですよね。
池口:
やっぱり、「繋がりを持ってる」ってかけがえのないことだと思うので、家の中に籠っているよりも、外に出て繋がる方がプラスになることがあると思います。
石田:
自分の感覚や興味に素直に向き合ってみて、「好きなことを見つけるのが難しいからこれをやってみよう」と思って行動したら何か繋がるものがあるかも。例えばアルバイトとかもそうですし。
外での出会いって、すごく刺激がありますよね。考え方や生き方に触れるきっかけになると言うか。大学生の頃とかだと、アルバイトなどでそういう繋がりが増えますよね。
石田:
学生の頃ってそういう繋がりが全てだと思っていて。社会人になってしまうと、学生の頃に得られるような、「カテゴリーや肩書きが決まっていない”繋がり”」ってなくなってしまうんですよね。例えば、企業の会社員になると、クライアント、上司、部下とか……肩書きがついてしまうんです。そうなると、その中のカテゴリーの人としか出会うことができなくなります。
だから、学生時代って何か特異な関係性というか。社会人になっては得られないものが詰まっているというのがすごく大きいですよね。
たくさんの人の人生を知ることで、選択の幅が広がる
大学で出会った人って、その時の関係性だからこそ得られるものや、繋がれるものがあるんだと思います。ちなみに、石田さんは学生時代に何かアルバイトはしていましたか?
石田:
僕、日雇いや派遣のバイトをやっていたんですけど、すごく面白いですよ。日雇いのバイトって、本当に色んな人がいて、何の制限もない人たちと言うか……普通に生きていたら絶対に会うことがない人と出会ったり、仕事も不思議な仕事が多かったり。
ちなみにどんな日雇いバイトをしていたんですか?
石田:
遺品整理のバイトや、あとはゴミ処理場とか、百貨店の搬入や設営などをやっていましたね。一度、搬入のバイトで一緒になった人と仲良くなったことがあります。短時間のバイトだったので大体4,000円くらいのお給料だったんですが、バイト帰りにその人と飲み屋さんに行ってその日稼いだお金全部使って帰りました。
すごい!映画みたいなエピソードですね。
石田:
その人とは今後繋がることはないだろうけど、その人の人生について触れたり、自分の話をする機会って少ないと思うので、バイトのお金の代わりに「その時間が充実していた」と思えるような経験ができたので、僕は良いと思いました。
人との出会いや経験は、自分の引き出しが増えるきっかけになりますよね。日雇いのバイトの面白さが少しずつ見えてきた気がします。
石田:
昔、働いていた美容院が急に潰れて、次の日から仕事がない状態の時があったんですよ。そういう時って、自分が1番下に見えるというか、どん底にいる気持ちになるんですよね。
だけど、色々な境遇の人に出会うと、意外とやっていける気がするというか。
人を知れば知るほど、人生の幅を知ることができるので、自分がどのような状態でも、気持ちに余裕が持てるようになりました。
自分が何か悩んでいるときって、成功している体験談や自分よりも上を求めてしまいがちですけど、そうじゃなくて、色々な人の人生を知ることが、自分の将来の選択にヒントを与えてくれそうですね。
石田:
そうなんです。色々な人の人生を知ると、自分が選択できるようになりますよね。色々な経験が、自分の基準を豊かにしてくれると思います。
自分はどう生きていきたい?生き方を選ぶことが、仕事を選ぶ近道になる
仕事を選ぶ基準って何を重きに置いたらいいんでしょうか?
池口:
20代の頃は、お金のためにというよりも、自分のやりたいことや能力を高めるようなことに重きを置くのがおすすめです。30代になるとだんだん立場が変わって、仕事では結果を求められるようなことが増えたり、責任が大きくなります。一方で、20代の頃は、まだまだ社会人としてもこれからの時期なので、周りも「これからの若者だから」と少し大目にみてもらえる。30代とはまた違った立場なんですよね。
そう思うと、やっぱり20代にしかできないことって絶対にあるので、社会人としての責任やお給料は置いといて、自分のやってみたいことを思い切りやるほうがいいなと。
石田:
僕は、仕事を選ぶ基準として、お金を仕事の動機にしないほうがいいと思っています。みんな仕事はお金が発生すると考えると思うんですが、
そうなると、生きていく中での行為全てをお金に換算して考えてしまい、損得勘定で動いてしまいやすくなりそうな気がするんですよね。
それに、仕事量とお金の関係ばかり考えてしまうんですよ。「これだけ仕事したのにこれだけしかもらえない」って思っちゃったり……そうなると、楽しいものも楽しく感じられなくなると思うんです。
きっとお金が発生する仕事以外にも生きていく上で仕事と呼べるものはあると思うんです。例えば、家事だったり。仕事ってもっと奥深くて、色んなものが実は仕事になると思うんですよ。
石田さんは今自分で古本屋を営んでいますが、どうやって選びましたか?
石田:
僕は、本屋という「仕事を選んだ」というよりかは、「生き方を選んだ」と思っています。
全体を通して、自分の生きる方向性を決める、みたいな。そういう路線で選択できたら、人間らしくて純粋でいいんじゃないかって。
自分が今やりたいものを、自分が選べる中で選ぶ。今できるキャパで背伸びせず、自分に合わせて選ぶほうが豊かな生活ができるんじゃないかと思います。
何か1つを極めることが、自分の魅力や軸に繋がっていく
学生が自分で何か選べるようになるには、今、何が必要なんでしょうか?
池口:
自分自身の中で、これだけは誰にも負けない、というものが1つでもあると良いですよね。
オリンピックでメダルをとるみたいな大きな話じゃなくて、例えば、「このジャンルだけ誰よりも詳しい」とか。「仏像は誰よりもいっぱい見てる」とか。自分自身の強みが1つでもあると、「自分はこういう風に見てもらえる」「自分のこの部分をみせていこう」という自信や余裕が出てくると思います。
池口さんは、20代の頃から、従来のお寺とは違う新しいことに挑戦されていると思うのですが、その中で、周りの目を気にしてしまうことはなかったですか?
池口:
そうですね、僕の活動に対して、時には批判的な声をいただくこともあります。でも、僕はそういった声をあまり気にしないようにしています。
僕は大学でも専門的に仏教を学んできましたし、経典をよく読んで、誰よりも仏教の勉強をしてきました。だから堂々とお坊さんとして振る舞えることができています。
だから、たとえ批判を受けたとしても、今まで誰よりも仏教と向き合ってきた自負があるので「かかってこい!」という気持ちを持ちながら活動してます。
具体的にどういった活動で批判されることがありましたか?
池口:
「てら*ぱるむす」という浄土系アイドルをプロデュースしていたのですが、「アイドルなんてお寺に相応しくない」と批判的な意見をいただくこともありましたね。
確かに、そういう見方もできますが、かつては仏像を彫る必要も、仏像に具体的なビジュアルを持たせる必要も、お坊さんがキラキラした袈裟を着る必要もなかったわけで、実はアイドル活動はそれらに通じるものがあるんです。
時代はどんどん移り変わっていて、いまの人に理解してもらえる伝え方を模索する必要があるんです。だから、お寺に来た人が、東京ディズニーランドに行った時よりも、お寺の方が楽しいって思ってもらえるくらいの表現をしてもいいと僕は思うんです。
活動をする中で、細かい部分に囚われず、本質的なものをしっかり追い求めていくということを、とても大切にしています。
自分自身と向き合う時間は、決して楽ではありません。時には周りと比べて、「自分には何もない」と落ち込んだり、焦りが出てきてしまうことも。
そんな時は、少しだけ外に出てみて、新しい人と出会うことでいい方向に進んでいくかもしれません。
自ら考え、行動した出来事には、無駄なことは何一つありません。
今日この記事を読んでいる時間も、アルバイトに行っている時間も、友人と遊んでいる時間も、いつかあなたの「やりたいこと」を見つける大きなきっかけとなるはずです。
コワーケーションスペース九条湯
住所:〒601-8027 京都府京都市南区東九条中御霊町65
WEB:https://kujoyu.com/rentalspace/
企画・撮影/株式会社 枠
編集・文/南 歩実