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「好きなことが直結する仕事なんてあるの?」本音のすっぴん座談会

2022.03.31
自分ごと

「好きなことが直結する仕事なんてあるの?」本音のすっぴん座談会

「私って、このままでいいのかな?」「まだ、これやってなくて大丈夫なのかな?」「みんな本当はどう思っているんだろう?」誰もが心に秘めている本音や不安。

誰にも聞けないけど、だけど知りたい。SNSでは色んな言葉が溢れているけど、私の知りたいことは、どこにも載っていない。
大学での私。友達と会っている時の私。おうちでの私。いつも被っている皮を剥がして、本当の姿で本当の話をしよう。

大学生の「働くこと」に対しての本音や不安を、体も心も「すっぴん」になれる銭湯で、大人たちとあれこれ話してみました。

【登場人物】
池口龍法さん(41歳/龍岸寺・住職/京都大学卒/京都府在住)
石田行宏さん(27歳/八上書林・店主/京都理容美容専修学校卒/兵庫県在住)
野田歩さん(32歳/メーカー勤務・セールスマーケティング職/関西外国語大学卒/京都府在住)

 

【今回の舞台】

コワーケーションスペース九条湯
2008年に廃業した銭湯『九条湯』をレンタルスペースとしてリニューアル。
当時の銭湯の内装や雰囲気を残しつつ、地域の方を含め、様々な方が仕事をしたりくつろいだり、自由に過ごせるスペースとなっています。
コワーケーションスペース(コミュニケーション+ワーク(活動・仕事・体験など様々な意味)として、単に仕事や作業をするのではなく、お客様同士が交流し、何か新しい事が生まれる”コミュニティHUB”になることを目指している場所です。

 

今回、現役の大学生から「働く」ことについての質問を募集しました。色々な質問があったんですが、その中でも「好きなことと仕事の関係」についての質問がたくさんありました。。その中から1つ質問を取り上げて、大人たちに質問してみました。

 

【質問】
好きなことを仕事にする、とよく言うけど、好きな気持ちが実際に直結する仕事なんてあるの?
例えば私は本や雑誌を読むのが好きだけど、じゃあそれを仕事にするって?
出版社に入って編集者になる?そもそも出版社に入ったとしても、営業とかマーケティングとか人事とか、実際のところで本とか雑誌に直接関われてるって言えるんでしょうか?

 

移り変わる「好き」という感情、どう向き合えばいい?

 

池口龍法さん(41歳/龍岸寺・住職)
お寺の住職をするかたわら、仏具系ポップユニット「佛佛部」の運営や、YouTubeを活用したオンラインでの情報発信を行う。地域のつながりを大切にしつつも、新しいオンラインでのコミュニケーションに挑戦するなど、新しいお寺の運営を行う。

池口:
僕は今お坊さんとして生きていますけど、好きとか嫌いとかいう感じではないかな。
恋愛と一緒かもしれないです。

例えば、まだその女性のことを知らないところがあったりすると、日々新しい発見があるので楽しかったり魅力に感じると思うんですけど、「好き」っていう感情ってそんなに長く続かないんですよ。相手の嫌な仕草まで一通り全部見た上で、それでも一緒にいられるかどうかですよね。だから、恋愛と一緒で、単に好きだけで仕事するのはしんどいなと思います。

池口さんも仕事について悩んだ時期があったんですか?

池口:
僕自身はお寺で生まれ育って、小さな頃からお寺の良いところも悪いところも見てきました。どちらも見た上で、「やっぱりこの場所が居心地良いな」って思ったんですけど、そこにたどり着くまでは結構時間がかかりましたね。27歳くらいの頃にやっと決心できました。

池口:
22歳の頃は、お寺から逃げようかなと考えていたこともありましたよ。でも、とりあえず食べていかないとだめなので……お寺に就職しましたが、ちょうどその頃プログラミングが流行っていたので、仕事が終わった後に家でプログラミングをやったりもしていましたね。

 

自分の選択が正解だったかどうかが分かるのは、いつ?

 

石田行宏さん(27歳/八上書林・店主)
「八上書林」という古本屋を運営。「日常に溶け込むような、生活リズムの一環に入れるような本屋」をテーマにオンラインで古本を販売している。

石田:
僕、会う人に必ずと言っていいほど「なんで古本屋をしてるんですか?」って聞かれるんです。本自体、好きは好きだけど、一番好きかって言ったら言い切れなくて……でも、好きって広いと思うんです。「これだけが好き」っていうのはきっとない気がしていて。

それに、好きな気持ちって時期によっても変わりますよね。だから、その時の感情で動いていいと思うんです。今、自分が想像しているものって、どこかしら自分の人生に繋がっているので、どれを選択したって正解だと僕は思っています。

なるほど!確かに、その時は意識していなくても、数年後の自分の仕事や人生に繋がる経験ってありますよね。

石田:
もし、この質問者さんが、本が好きで出版社に入ったけど、編集じゃなくて営業に回されてしまった時、多分「これは自分の中で間違いだった」とか「この選択が失敗だった」って感じると思うんです。けど、今選んだことが失敗か成功かっていうのは、すぐに分かることではないと思います。
例えば、1歩2歩だけ動いただけだと、景色が変わらなくて、今の自分がどこにいるか分からないですよね。でも、1キロ先まで歩くと、やっと今までの情景が見えてきたりする。それと一緒で、長い時間をかけてやっと、選んだことの結果が見えてくると思います。

そもそも僕、最初に就職したときは美容師だったんですけど、「どうして美容師になったか?」と聞かれたら、理由は分からないですね。美容師になったきっかけは、高校時代に野球部でずっと坊主だったけど、ファッション雑誌に載っているお洒落な人が、みんな美容師だったっていう、ただそれだけで。

正解探しはやめて、まずは飛び込んでみる

 

石田:
僕が学生の頃、自分に合っている仕事や職種を正確に判断できる能力があったかっていうと、そうは思わないし、自分に適正な仕事は何かを言い切れることは今もないです。
「どれが正解で間違いか」という側面で仕事について考えるとうまくいかない気がするので、「今1番気になることってなんだろう?」でも良いと思います。

池口:
今って、色んな形でやりたいことにチャレンジできる時代ですよね。やりたいことや気になることを続けていったら「最後には全て繋がっていた」と感じられるというか。

石田:
そうなんです、狙わないことですね。狙っちゃうと失敗すると思うんです。

池口:
色気を出さないことですね。

石田:
そう!色気!何かやる時に狙ってやると失敗するんで、そういうことは考えずに、ちょっと気になることに飛び込んでみたり、あとから考えたらつながったりとか、そういう感覚でいいのかなって。

 

好き以外の感情でも、一生懸命になる瞬間がある。

 

野田歩さん(32歳/メーカー勤務・セールスマーケティング職)
海外営業や販売促進を中心とした、セールスマーケティングの領域を担当。現職の前は、アイルランドに住んでおり、現地でマーケティングの仕事を経験。アイルランドでの経験から「英語を使った仕事がしたい」と感じ、海外に関わる仕事に就く。

野田さんは、今まで何度かお仕事が変わっていると思うんですけど、その中で「好き」という気持ちに変化はありましたか?

野田:
今はもともと興味のあった、海外の方に関わる仕事をしています。ただ、これまで、好きなこともやったし、好きじゃないこともやってきました。でも、好きじゃないことだからと言って、夢中になれなかったわけではないんです。

野田:
新卒の頃は保険会社の営業をしていて、3年半働いていました。
もともと留学をするために大学に入ったんですが、留学に行く2ヶ月前に父親が亡くなって、留学に行けなくなったんです。
ちょうどその頃、長いスパンでお客さんと向き合える仕事がしたいと考えていたのと、保険金に助けられて大学を卒業できたっていうのもあったので、その経験を無駄にしたくなかったんですよね。

なるほど、色んな思いがあって保険会社に就職されたんですね。

野田:
保険会社で営業をしていた時、250人くらい営業メンバーがいたんですけど、辞める前にその中で1番の売り上げを出すことができたんです。

一同:
ええーー!すごい!!

野田:
入社したての頃に、上司に「のだちゃんには期待していないから」とか言われたことがあって。その時に「絶対見返したい!!」って、仕事に取りくんでいたら、いつのまにかのめり込んでいたんですよね。だから私は、悔しさが原動力になって、好きじゃないことでも一生懸命になれたんです。
違う業界にいくことで見えてくることや、ふとしたきっかけで心が動くこともあるので、「絶対好きな仕事がいいよ!」というわけではないと私は思いますね。

どんなことでも、何かのきっかけで一生懸命取り組むようになって、それが成果につながっていたりすることってありますよね。それがやりがいや達成感につながったり。

池口:
今のお話を聞いてて思ったんですけど、お寺の形って10年前と今だと全然違いますし、古本屋さんもきっとそうだと思うんです。私は今お寺でアイドルをプロデュースしたり、YouTubeでの配信を行なっていますが、10年前だったらきっとこんなことできなかったはずです。
10年20年同じ仕事についたとしても、ずっとやっていることが同じかと言われると、そうではなくて。きっと、ちょっとずつ世の中の形って変わっていくんですよね。

だから、就職先の仕事がもしも「向いていないな」と思っても、その状態がずっと続くわけではない。だからこそ、あまりネガティブに捉えずに、前向きにやっていくことで色んなことに繋がっていくと思うんですよね。

好きなことを仕事にする、とよく言うけど、好きな気持ちが実際に直結する仕事なんてあるの?
自分の好きな気持ちが仕事に直結することは、ある時もあるし、ない時もあるのかもしれません。

だけど、もしも好きが直結した仕事じゃなくても、それを「失敗」だと思うのはちょっと待って。
今すぐには分からないかもしれないけど、長い人生、無駄な経験なんて何一つないと私は感じました。
まだ自分の好きが見つかっていない子も、好きがある子も、
今の自分の1番気になることや直感を信じて、動いてみてほしいなと思います。

 

コワーケーションスペース九条湯
住所:〒601-8027 京都府京都市南区東九条中御霊町65
WEB:https://kujoyu.com/rentalspace/

 

企画・撮影/株式会社 枠
編集・文/南 歩実

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